#終わりのない旅 〜藤原慎也〜

[“一芸に秀でる者は多芸に通ず”父の教えを胸に ]

雲の上の存在だった国際A級スーパークラスになれば、赤い絨毯が敷かれているという甘い考えを持っていました。でも実際はリスクしかない世界。経済的にステイタスを得られる訳ではない」
全日本トライアル選手権、国際A級の選りすぐりの選手19人がテクニックを競うスーパークラスで戦う藤原慎也さんは兵庫県生まれの29歳。大工の棟梁であった父が裏庭でトライアルを楽しむ姿を見て育った。7歳のころにはバイクで遊ぶ毎日。中学校時代はかなりの『ヤンチャグレ』だった。卒業が迫ったころ「どっちかに(バイクか不良か)してくれ」と父に選択を迫られた。
翌日から奇抜だった髪を丸坊主にして学校に行った。「皆は騒然としましたね、でも迷わなかった。トライアルを、どうしてもやりたかった」。
家業を継いだ兄に代わって、高1から近畿選手権に出場し国際B級に。高2で国際A級に昇格した。礼儀にとても厳しかった父に教わったのが“一芸に秀でる者は多芸に通ず”のことわざ。
「その言葉を信じ てここまでやってきました。最近になって、やっと親父の言葉を実感できるよう になってきました」。

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2014年、24歳で国際A級のシリーズ チャンピオンに。スーパークラスに昇格しても自身の環境に大きな変化は無かった。そんなとき、イギリス・マンチェスターで行われたシティトライアルの映像を見た。「トライアルは街中でできる。これだったら夢が見せられる!」。
藤原さんの意識が『夢を見せる側』に変わった瞬間だった。
構想4年、2018年に大阪の通天閣で前代未聞のシティトライアルを開催する。
「全てにおいて大成功でしたが、2,000人のキャパでは小さすぎた。翌年は万博公園に移動しました」。2020年の開催は未定、クリアしなければならない課題は多いという。

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「シティトライアルはトライアルだけが良くなるという問題ではなく、モータース ポーツ全体が抱えている問題を打破できる可能性があるイベントなんです」。
勤務する高橋練染株式会社・KOKOROCARE事業部では本部長に就任。大きなプ ロジェクトをいくつも抱えて多忙な日々を送る。
「正直、今年は引退も考えました。 でも考えれば考えるほど、辞めてもデメリットしかない。今の仕事も人脈もトライ アルは藤原慎也を創った全てなんです」。
“一芸は秀でる者は多芸に通ず”その言葉を胸に、プロライダー藤原慎也は2020年のスタートラインに立つ。
自分が自分であり続けるために。

「シティトライアル開催に関して、僕の中で絶対ブレない決まりがあります。観戦料が安価 であること、本物のレースをすること、その街のシンボルがある中心部であることです」

2019 Booyah Vol.5より