#終わりのない旅 〜風間晋之介〜

未舗装の砂漠や丘陵地に設定された約10,000kmのコースを2週間かけて走るダカール・ラリー(通称パリダカ)。完走できる選手は開催年やクラスによっては半数に満たない。過去には政治的に不安定な地域を走ることもあり選手やクルーが襲撃を 受けたり、クラッシュによる死亡事故も起きている。
『全ての完走者が勝者である』が出場者の共通認識となっている。

[ただ純粋に、バイクで走るのが好きなんだ。争うのが好きなんじゃねぇんだ]

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世界一過酷といわれるレース『ダカー ル・ラリー』に2017年、2018年に出場し完走を果たした風間晋之介さん。 史上初めてバイクにより北極点と南極点の到達に成功するなど、世界的に知られる冒険家の風間深志さんを父にもつ。
幼少期からバイクが身近にあり、のちにレーサーを目指すのは必然だったのかもしれない。
10歳のころに観たジャパンスーパークロス選手権でバイクが空を飛ぶ光景に衝撃を受け、14歳のとき深志さんの勧めもあり、モトクロスレースの活動を始める。
深志さんの厳しい指導と家族の協力のもと、関東シリーズでチャンピオンを獲得するなど活躍する。 「トップグループまでは努力次第で行けるけれどそこから先、チャンピオン争いをするにはフィジカルではなくてメンタルがすごく影響する。チャンピオンになる選手はコンマ1秒速くなるために、他の選手が飛んでないジャンプを飛ぶ。俺は誰かが飛んでから飛ぶ。前例がないと飛べない性格。
どんなことをしても勝ちたい、ほんとうに勝ちたい。そういう人しかチャンピオンにはなれない」。 自分の欲求が一番。自分のゴールを掴むのが優先。そう言い聞かせて性格改善 に取り組んでいく。他人のことなんて考えていられない。勝つためには他の選手に当てて転倒させてもいい。図々しくなければならない。
久しぶりに会う友人からは「お前、性格悪くなったな」と言われても、レースで勝つことしか考えていない。ある意味、悪い性格じゃないと勝てない世界だと思った。
「でも、関東シリーズでチャンピオンをとって全日本A級に上がったら、もういいやって思ったんです。怪我が多かったし、いきなり、うまくいかなくなった。最終的には背骨も骨折した。
もともと俺は、人と争って蹴落としてまで一位になりたいというタイプじゃないのに、性格まで変えて。そこまでしてライダーとして行き着く先はなんだろうと。夢を追えなくなってしまいました」。 そんな中、ひとりで練習することが多 かった晋之介さんに仲間の選手が言った ひとことが後にダカール・ラリーに参戦するきっかけのひとつになったのかもしれない。
“ひとりで走ってて面白いの?”。
「そのとき思ったんですよね、俺、走るのが好きなんだって。争うことよりも、バイクで走るのが好きなんだって」。

過酷なダカール・ラリーでは、トラブルを抱えた選手を 助け合うこともある。「ライバル同士のはずなのに、友 情関係で結ばれるんです。そして、因果応報、自分の行 いは必ず返ってくることを教えてもらいました」

レース活動引退後、晋之介さんは俳優の道を志す。育成スクールに通い芸を磨く中にも、ある想いが残っていた。父、深志さんが成し遂げた日本人初の2輪によるダカール・ラリー参戦。俺も親父みたいなことをやってみたい。

2015年、メキシコで行われ、不眠不休の36時間で1,000マイルを走破するデザートレース、バハ1000に参戦。ダカール・ラリーへ向けた第一歩だ。そこで晋之介さんはレースの新たな魅力に気付く。 ラリーはひとりで走っている時間が長く、かつ長距離でいろいろなところを走る。砂の丘を越えたらいきなり 目前に広がる草原と太平洋。そんな風景にも取りつかれた。
夜中、真っ暗闇のコースにぽつんと火の明かりがあり、 近づいてみるとビールを片手に応援している観客だったこともあるという。

「全日本に出ていたころも車中泊をしながら全国に行きました。土地土地に住んでいる人たちに会ったり、いろんな景色を見られるのが嬉しかった。
旅をしながらレースをしている。こんなに面白いことないですよ。
ある日、コースから外れて50kmくらい手前に戻ってしまったんです。
フィジカル的にものすごく辛いところで、またここ走るのかよって落胆もあったし、何よりガソリンが足りなかった。そのとき、4輪のチームを見つけてガソリンをわけてもらったんです。水や食料も。
別れ際「お前、ゴールでまた会えるの待ってるぞ」って言われて。
今までのレースではありない経験。

2017年、ダカール・ラリー初参戦。
ルーキーとしては何を差し置いても目指すは完走。全日本のころの自らの姿がよぎる。
ある日、ゴールまであと10kmというところでガス欠でストップしている南米トヨタの4輪のチームに出会う。
「完走するのが目的。そんなの気にしないで行けばいいのに、なぜか停まっちゃって」、バイクの小さなガソリンタンクからガソリンをわける。その間、自分が抜いたライダーたちに抜かれていく。
別の日。コース上でエンジンにトラブルを抱えたバイクが停まっていた。
ゴールまで15kmのコースをロープで引っ張る。ペースも落ちるしライバルにはどんどん抜かれる。
ゴール後には日暮れまでに200km先のキャンプ地に行き、身体を休めなければならない。
やっとのことでキャンプ地に着くと仲良くなったアメリカ人のライダーが居た。
「今日引っ張ってたヤツ、友達か?」
「いや、ぜんぜん知らないヤツなんだけど、停まっちゃったからさぁ」。
「お前、いいヤツだな。それ、カルマだから。絶対、自分に返ってくるぞ」。
2日後、ナビゲーションが難しくコースから逸脱しやすいステージ。晋之介さんも迷ってしまう。
すると前方からこちらに手を振りながら全力で走ってくるバイクがいる。先日ゴールまで引っ張った選手だ。通過するべきチェックポイントを晋之介さんが通過できていないことをその選手は教えてくれた。
「そいつに会わなかったら、ペナルティで順位を一気に落としていた」。
その翌日、レースを終えてキャンプ地に戻る途中にトリップメーターが故障し地図が読めなくなる。
キャンプ地へと向かうメディアや主催者のバスについて行くがペースが遅い。そこへガソリンをわけたトヨタのチームが通りがかる。故障した旨を伝えると、先導してくれて日暮れ前にキャンプ地に着くことができた。
仏教やインドの多くの宗教の説にあるカルマ。善い行いも悪い行いも、それ相応の報いがある、というものだ。
「なにか自分がした行為が実感できて返ってくることって、実生活ではなかなかない。しかもたった2週間の間に。それがわかることが、ダカール・ラリーの魅力なんだと、とりつかれましたね」。

家族と共に旅をしながら全国を転戦したころに見た風景。争うことよりもバイクで走り続けたいという想い。他の選手を蹴落としてまで勝とうとしていたころとは真逆の助け合う世界。それらはすべて晋之介さんの性格や本質に合っているのだろう。
ダカール・ラリーは晋之介さんが望む人生の縮図のようにおもえる。

応募総数4,965名の中から34名の合格者のひとりとなり、テレビ朝日系ドラマ 『やすらぎの刻〜道』の根来三平役に抜擢される。「根来家はほんとに家族みたい。 風間俊介君なんかほんとの弟みたいですよ、キャリアは全然上だけど(笑)」

2019年、転機が訪れる。
オーディションを経て、テレビ朝日系ドラマ『やすらぎの刻〜道』の根来三平役に抜擢された。この年のダカール・ラリー参戦は断念し、俳優業に専念する毎日だ。俳優として目指すものは何なのだろうか。
「すごく、ぼんやりといえば世界平和。昔から、不平等で争いの絶えない世界をどうにかできないだろうかという想いがあった。人間は地球上で一番知恵を付けているはずなんだから、解決策はあるは ずだし、もっとスマートに賢く、愛を持って生きればできるはずなのに、自分の欲ばっかりを求めるからおかしくなってしまう。そういうのが無くなるような世の中にしたい。
役者はそれを伝えるひとつの手段でもあると思うんです。演じると人の心理がわかるし、色々な人生を体験できる。そこにたくさんの学びや気づきがあります。そして役者が一番、自分の想いをダイレクトに表現できて多くの人に伝えられるはず。そのために、自分の芝居を磨かなければなりません」。
人生はよく旅に例えられる。『旅をしない者は人間の価値を知ることはできない』とはアフリカ北西部に住むムーア人のことわざだ。そこは、かつてパリ-ダカール・ラリーが行われた地でもある。
晋之介さんの旅は、まだまだ途中だ。

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2020 Booyah Vol.5より