#しなやかな力強さと、モータースポーツ
激しいスピードで勝敗を争うモータースポーツにも近年、女性選手が増えつつある。
その中で第一線で活躍しつづけるふたりの選手に「女性としての難しさや苦労は?」とたずねてみた。
ふたりの言葉には苦難を感じさせないアスリートとしての力強さとともに、女性らしいしなやかさがあった。
Profile
岡崎静夏:1992年6月12日生まれ。神奈川県出身のO型。コハラレーシング所属。10歳のとき弟の影響でポケバイレースに出場したことがレースを始めたきっかけ。2009年・2010年、MFJレディースロードレースでシリーズチャンピオンを獲得。2010年から全日本ロードレース選手権に参戦中。最高位は2016年シリーズ6位。2016年・2018年、世界最高峰のロードレース世界選手権シリーズ(MotoGP)のMoto3クラスに主催者推薦枠として出場し両年とも完走を果たした。
MFJ全日本ロードレース選手権とは
財団法人日本モーターサイクルスポーツ協会(MFJ)が開催し、2019年は全国のサーキットを舞台に全8戦によって争われる国内最高峰のオートバイ・ロードレースシリーズ。岡崎選手が参戦するJ-GP3クラスは250cc単気筒の市販レーサーを使用。4つあるクラスの中で最も軽量なクラスだが、最高速は約220km / hにも達し、コーナリングスピードは大排気量マシンにも引けを取らない。若手からベテランまで19人のライダーがシリーズエントリーをしており、その中で女性ライダーは岡崎選手を含め5人。
男女は違いであって差ではない。
不利とか弱いとか気付かない方がいい。
やってみないとわからないし、やってみてもわからないから戦える。
所属してきた2つのチームのイメージカラー、ピンクと青を左右に配した髪色が目を奪う、私服で現れた岡崎静夏さんはかわいらしい女性。身長は159cm、体格はガッチリしているわけでもなく、一見、アスリートのイメージはない。
3歳から始めた器械体操では全国大会で優勝するほどの持ち前の身体能力と、大会で培った「未だにレースのときに緊張したことがない」という精神力を活かしレースでも頭角を現していく。チャンピオンを獲得したMFJレディースロードレースこそ女性限定のレースだが、現在参戦している全日本ロードレースは男女の別は無い。多くのスポーツが男女でわかれて競う中、女性としての離しさや不利な点はないのだろうか。
「ポケバイも男女同じでしたから、全日本に出るようになってそう質問されて「そういえばそうだ」と気付いた(笑)」。岡崎さんが参戦するJ-GP3クラスは車体が軽く、大排気量マシンのクラスと比較すると筋力差や体カ差は出づらい。そもそもバイクレースは他のスポーツに比べて大きな筋力は必要が無いという。
「女性は不利と思われがちですが、男性が女性に負けるとショックですよね(笑)だから女性のほうがプレッシャーは少ない。逆に、女性ってだけでメディアに取り上げてもらえたり応援してもらえるのは嬉しい。先輩ライダーからもたくさんアドバイスをもらいました。最初からそれは武器だと思っていたし、それを武器にしないのは違う。そもそも不利とか弱いとか、私、気付かないんです。気付いちゃうと辞める人も居るでしょうね。やってみないとわからないというか、やってみてもわからないから戦えるんです」どこまでもポジティブな岡崎さんの姿勢は、21年ぶりの日本人女性ライダーとしてMotoGPへ2度、挑戦したときを振り返る言葉にも表れている。2戦とも完走を果たすものの下位に沈み、メディアには手厳しい記事も見受けられた。「ポイント争いくらいはできるかもと思ったけれど、2回とも最初の走行で打ち砕かれました。抜かれる瞬間、コーナーひとつだけでもついて行けた瞬間、世界レベルのライダーのすべての操作は繊細で、衝撃的でした。
でも、自分には理解できない次元のことをしているのだと思っていたのですが彼らは魔法使いじゃなかったんです、人した。これが魔法だったら諦めがつくのすけどね(笑)自分がサボっているだけなだって思い知らされました」。今年で全日本に出場して10年目。今では後進の女性ライダーの育成にも携わっいる岡崎さんがこれから目指すものは何のだろうかと最後に聞いてみた。
「世界に通用する女の子が出てきたら、もと社会に取り上げてもらえて、もっとメジャーなスポーツとして拡がるはず。そのチャンスをもらえるのが女性アスリートの特権です。女の子たちがレーサーを目指たときに、きちんと仕事になるようにしたいですね。そのためにも、私に成績がほし。成績があれば説得力があるし、子どもた教えてもきちんと聞いてくれるんですよ」。
#モータースポーツ越しのわたしの世界
Profile
小玉絵里加:1988年12月21日生まれ。奈良県出身のA型。HRCぱわぁくらふと所属・全日本トライアルレディースクラス選手会会長。2000年に父の影響でトライアルを始める。2010年近畿選手権NBクラスランキング7位、NA昇格。2013〜14年と世界トライアル選手権アンドラ大会に2年連続出場。2018年度ランキング2位
MFJ全日本トライアル選手権とは
トライアルは、人工的に作られた施設と自然の地形を利用したセクションを規定時間内に走破する減点競技。足を地面に着く、転倒・後退などで細かく滅点計算され、同セクションを2度走行し減点数の全計によって勝敗を決する。2016年に新たに創設された全日本トライアルレディースクラス(全日本トライアル選手権と併催)は全7戦によって争われ、小玉結里加選手は2018年度ランキング2位。出まなこそ少ないが日本国内のモータースポーツの発展も含め、今後の展開が大いに期待されている。
自分の「直感」を信じて生きる。
勝ちたい、と思う情熱がある限り私はまだまだ戦います。
ヒールを履いてカメラの前に立つ、長身の小玉絵里加さん。容姿が美しいだけの女性とは明らかに空気感が違う。小学5年生から父の影響でトライアルを始めた。思春期には競技を辞めたいと考えたこともあった。しかし恵まれた運動神経と超負けず嫌いの性格で大学時代には頭角を現し、2010年に全日本選手権に昇格。2013〜14年には世界選手権フランス大会に2年連続で出場する。「ヨーロッパライダーとの圧倒的な実力の差に偶然としました。まさにフル・ボッコ状態です(笑)」。
この経験が「全日本レディースクラスを創設する」という小玉さんの強い決意を生んだ。※世界選手権にはウーマンと呼ばれる女子のクラスが存在する。「世界レベルを目指すには、日本国内でも女子同士が戦わないといけないと考えました。初めは反対意見も多かった。新しい試みなど誰もしたくないんです。女子用のコース設定も必要だし、競技時間も増える。「全日本選手権全体のレベルが下がる」なんて意見までありました」。
しかし小玉さんの熱意は実り2016年、全日本トライアル選手権レディースクラスが開幕。反響は予想以上だった。「とにかく女性ライダーの意識が大きく変わったと思います。バラバラだった女子が同じ土俵で切磯琢磨できるようになった。「オンナの戦い」に観客も増え、スポンサーさんの意識も変わりました」。本来スポーツは男女別が当り前、しかしモータースポーツではその常識が通用しない。(ロードレースは男女混走)
「男と女では根本的に腕力が全く違います。トライアルでは腕力で補わなければいけない場面がどうしてもあります。それが女性にはできずに転倒してしまう。同じ土俵で戦うなら、女性は男性の何倍ものテクニックが必要になるでしょう」。普段のトレーニングはランニングがメイン。機材を使ってアウターの筋肉をつけることはしない。バランス重視のトライアルはモトクロス選手とは肉体の作り方が違うという。カロリー過多なものは摂取しないが、食事制限はしていない。
それよりも女性選手はメンタルコントロールが難しいと小玉さんは考える。「怒るわ、泣くわ、喚くわで、感情の起伏は女性の方が激しいと思います。体調の変化をアドレナリンでカバーしているつもりでも「あいつ今日機嫌悪いな〜 』とアシスタントやメカニックは思っているかもしれません」。
キャリアは今年で既に19年、今年30歳になった。最近「職業は?」と問われると「ライダー」と答えるようになった。高額の契約金が出る訳でもない、継続が極めて難しい勝負の世界。レース活動の他にイベント出演、デモ走行、TVなどのメディア露出で多忙な日々。
「30歳になっても何も変わらない、まだ道の途中です。これからも表に出て行く仕事をしたいと思います。イベントやデモ走行、雑誌のお仕事もそうです。でも小玉絵里加でなくてもいいこと、嫌な予感がすることはやりません、そう、私はいつでも自分の直感を信じています」。
2019 Booyah Vol.4より