ハナちゃん、このフリーペーパーの編集長であり “イチオウ”後輩の彼女との出会いは、私が10年以上ツーリング紀行を連載させてもらっているバイク雑誌「BIkeJIN」でのことである。
確実に物覚えの良くない私の記憶なのであれが本当に初めてだったかはアヤシイが、私とハナちゃんと女性編集部員で向かった雨の日のBMW3台乗り比べ。ほぼ初めて(のはず)の撮影が雨、しかも自分のバイクじゃないなんて不安だろうなあ…なんて私の勝手な心配をヨソに、バビュンとバイクを走らせてアッサリと濡れた路面でUターンをかました彼女に、何ちゅーやつだ(褒めてる)と思ったのが彼女の第一印象だった。そこから月日は流れ「モンさん」と慕ってくれるのを良いことに、彼女のキラースマイルに時折気後れしながらも私は先輩風を吹かしているのである。
そんな彼女とひょんなきっかけで海外へ連れ立ったのが今年頭のこと。根本健さんというすごいボス(話せばとてつもなく長くなるので色々割愛)に、台北(タイペイ)から宜蘭(イーラン)への日帰りツーリングをアテンドしていただいた。山間部をひたすらにワインディングする5号線はそれはもう快適で、峠からの絶景も、宜蘭で食べた屋台の魚肉だんご入り汁麺も、カスタードやアンコ入りの大判焼き饅頭も、更にレンタルバイクを返却すべく戻った復路では市街地の帰宅ラッシュ(でも警察官の交通整理が神業で混まない!)まで満喫し、旅も日常も、台湾のバイク事情を身をもって知ることができた素晴らしい旅だった。道の様子も言葉もワカラヌ私たちにとって現地で暮らすネモケンさんの存在と、インカムを通じて教えてくれる知識やライテクがとてつもなく貴重だったのは言うまでもない。ちなみに今回は自費のプライベート旅、LCCを利用したのでできる限り荷物重量を減らそうとほぼバイクウェア着の身着のままで飛行機に乗り込んだ私に対して、ハナちゃんはちゃっかり「ディナーにお呼ばれした時用の服」を数着スーツケースに忍び込ませていた。デキる女である。
私が初めて海外でバイクに乗ったのは2012年のマン島だった。初めてのヨーロッパ、初めての海外レース取材、英語力はほぼ皆無。そんな浮き足立った私に“いつもどおりに旅を楽しむチャンス”をくれたのがNC700Sだった。UK Hondaさんからお借りしたそれに跨がった瞬間、目の前の霧が晴れたようにいつもの自分になれた。「やっぱり私にはバイクが必要なんだ」私にとって旅をするとは “バイクの上から見た景色” と同義語にもなっている、それほどにバイクと過ごしてきたのだと自覚した瞬間だった。
バイクは楽しく、そして時に危険で、そして『バイクに乗る』だけではない楽しみを孕んでいる。それは新たに出逢う仲間のことかもしれないし、今まで知らなかった自分の一面かもしれない。もしそれが知りたくなったなら、私たちが言えるのは「乗ったらわかるよ」ということだけだ。ハナちゃんが知る景色も、私が知る香りも、それはそれぞれ自分だけのものなのだから。
PROFILE
多聞 恵美/ 1984年うまれ。バイク媒体を中心にモデル・ライター・ライダー=モデライダーとして活動中。愛車はMVAGUSTA BRUTARE800、Lambretta V200 special、HondaXLR200。2018年よりバイク系MCに特化したワークショップ「松下塾」講師も務める。DAINESEアンバサダー。
Twitter @tamonmegumi
Booyah Vol.4より